カム送り解錠（かむおくりかいじょう）

カム送り解錠とは不正解錠の手口のひとつで「バイパス解錠」とも呼ばれます。カム送り解錠の具体的な手順は、鍵穴のある円柱状の「シリンダーカラー（カール）」を手前に引いて、ドアとの間に隙間を生じさせます。そこから、針金状の特殊な工具を差し込み、錠ケース内の「カム」と呼ばれる、かんぬき（デッドボルト）を動かすためのパーツを工具で直接回すことで鍵を開けます。シリンダーカラーはひとつの製品で、さまざまなドアに対応できるよう作られており、手前に引くとドアとの間に、ある程度の隙間ができるのが一般的です。隙間ができること自体が問題ではなく、錠ケース本体の欠陥を直接攻撃されるため不正解錠されるのです。

カム送り解錠は工具が鍵穴を経由しないので目に見える傷がつきにくく、侵入されたことがわかりにくい手口となっています。ピッキングやバンピングのように鍵穴を使う不正解錠とは全く異なるため、防犯性の高い高価なシリンダーを取り付けていても一部のカム送り解錠対策済みシリンダーを除き、カム送り解錠を防げません。また、特殊工具と言っても針金1本で解錠が可能で、作業時間も1分ほどしかかからないのが特徴です。

しかし、カム送り解錠の恐れがある製品が限られていることや、メディアでも詳しく報道されたため、ある程度のユーザーが早期に対策を行ったと考えられます。また、各メーカーも該当する製品をカム送り解錠対策済みへと改良したり、廃版にしたりしています。これから新たに錠前を取り付ける場合は、カム送り解錠の危険性はほぼありません。しかし、しばらく前に錠前を取り付けた建物や、未対策の在庫品を取り付けている可能性もありますので、1度確認してみると安心です。カム送り解錠対策をする際は、作業に慣れていないと玄関ドアやシリンダーカラーを傷付ける恐れがあるので、カギの専門業者へ相談をしてください。賃貸住宅にお住まいの方は、退去時に原状回復義務があるため、管理会社やオーナーの許可を取るのが先決です。

根本的な解決方法は、錠ケース本体をカム送り解錠できない対策済みの製品に交換することです。多少の手間と費用がかかりますが、確実にカム送り解錠を防げます。もう少し手軽なカム送り解錠を防止するための対策としては、カム送り解錠対策用品として販売されているパーツの取り付けが有効です。対策用品には大別して2種類あります。「スペーサーリング」という防止金具は、カム送り解錠のためシリンダーカラーを引っ張ったときにできる隙間に取り付けるリング状の部品で、物理的に針金が入る隙間をなくすことでカム送り解錠被害を防ぎます。しかし、厚みが必ずしもシリンダーカラーとドアの隙間に合うとは限らず、製品によっては簡単に取り外しが可能です。メーカー純正の対策用品では、カム送り解錠対策用部品というものもあり、錠ケース内に取り付けて針金が入り込む隙間をなくすタイプの防止金具になります。これらのカム送り解錠対策用品は比較的安価で販売されており、自分で取り付けることもできます。製品によって使える対策用品が異なるため、購入の前にしっかり確認をすることが重要です。カム送り解錠対策で錠ケースを交換する際に、古い鍵を使っている場合は、一緒にシリンダーをディンプルキーなどの防犯性の高いものに交換することもピッキングやバンピング対策としておすすめです。鍵穴がない電子錠や電子錠はピッキングやバンピング対策だけでなく、カム送り解錠対策としても効果があります。

侵入されにくい安全な鍵を選ぶ基準のひとつとして、「CP（Crime Prevention：犯罪防止）マーク」というシンボルマークがあります。2002年に警察庁や関連省庁および日本ロック工業会などの建物部品関連団体から構成される「防犯性能の高い建物部品の開発・普及に関する官民合同会議」（官民合同会議）が設置されました。この官民合同会議が作成した「防犯性の高い建物部品の目録」に掲載されている製品にはCPマークが与えられています。CPマークの付いた鍵は、官民合同会議によって侵入被害を受けにくいとの認定を受けています。具体的には様々な侵入攻撃に対して5分以上侵入を防げると判断されたものです。

メインの鍵のほかにさらに補助の鍵を取り付ける「ワンドアツーロック」という対策方法もカム送り解錠による侵入を防ぐ方法として有効です。万が一カム送り解錠されてしまったとしても、次の鍵を開ける時間が必要であれば、侵入に必要な時間が延長されます。警察庁が侵入犯に対して行った調査では、侵入に5分以上かかると、大多数がその建物を諦めてしまうと報告されています。補助錠での複数施錠は、カム送り解錠だけでなく、ピッキングやサムターン回しなどほかの解錠手口の防止にもなるため、さまざまな不正解錠に力を発揮する対策です。

カム送り解錠は、比較的難易度が低い不正解錠ですが、ピッキングやサムターン回しといった、ほかの不正解錠ほどの犯行例は報告されていません。しかし、カム送り解錠の手順は警視庁によって全国的に公開されており、現在でも悪用される可能性はゼロではありません。古い錠前を使用している場合は、鍵の専門業者に相談したり、最新の錠前へ交換することが必要です。