ドリリング（どりりんぐ）

ドリリングとは、ドリルなどの電動工具を使ってシリンダーを破壊する不正開錠の手口です。ドリリングは、鍵穴部分であるシリンダーを物理的に破壊して開けるため、破壊開錠とも呼ばれます。ディンプルキーはピンが上下や左右、斜めというように鍵の構造が複雑になっているため、ピッキングが困難です。鍵穴のない電子錠の普及に伴い、ピッキング自体が難しい状況も増えてきています。その点、ドリリングは原始的な方法のため、ピッキングほどの技術がいらず、ドリルさえあれば比較的短時間で侵入が可能です。

電動ドリルやドリルドライバー、インパクトドライバーといった道具で、ドリリングは行われます。円形の穴を開けられるホールソーと呼ばれる刃物を、ドリルの先に取り付けて破壊する場合もあります。錠はシリンダー内部に複数あるピンの高さと鍵の形が一致した際にシリンダーの内筒が回転し施解錠しますが、ドリリングによってピンを壊すことでシリンダーが回って不正に開錠されます。ドリリングを行う際は、シリンダーに対して正面からドリルでピンを壊します。ドリルで内筒の部分をくりぬいたり、シリンダーを壊して錠ケースに攻撃したりする場合もあります。内部の仕組みが単純な古いタイプの鍵であれば、破壊を伴わない解錠よりドリリングのほうが素早く扉が開く場合もあります。例えば、両側がギザギザのディスクシリンダー錠は、ピンが上下の方向のみに存在します。そのため、ピンの破壊によって鍵の形状と上下の高さが合えば、内筒が回転し、鍵がなくても扉が開きます。

重要な荷物を室内に置いたまま鍵をなくしたなど、万が一の際にドリリングは有効な開錠手段です。しかし自力でのドリリングは、扉などシリンダー以外を破壊するリスクも存在します。ドリリングに必要なドリルは、通称ピッキング防止法と呼ばれる、「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律」で定められている指定侵入工具であり、むやみに持ち歩くと法律違反になってしまいます。安否の確認やなかに人が閉じ込められているなど、命にかかわる場合には、専門業者にドリリングしてもらうのが一般的です。ただし、鍵開け費用や方法は業者ごとに異なるため注意が必要です。万が一ドリリングが必要になった際、依頼時は先に見積もりをもらうようにしてください。なお、シリンダーを破壊すると施錠ができなくなるため、ドリリングで開錠すると、シリンダーの交換代金があわせて必要になる点に注意してください。

超硬部品を使ったシリンダーは、ドリリングの被害を防ぐのに有効な手段です。鍵を選ぶ際の基準のひとつとなるのが、CP認定品です。CP認定品とは、国土交通省や警察庁などから成る官民合同会議の防犯性能試験に合格した、防犯性が高い建物部品です。建物の出入り口に使われているシリンダーは、防犯性能を高めることが特に必須とされている指定建物錠に該当し、耐かぎ穴壊し性能の表示が義務づけられています。耐かぎ穴壊し性能とは、指定の方法で複数回シリンダーを攻撃し、解錠にかかった時間を計ったものです。時間は5分未満、5分以上、10分以上の3段階のランクに分けられており、ランクからドリリングへの耐性が判断可能です。ドリリングに対するシリンダー対策例には、超硬部品や焼き入れ部品の使用があげられます。ドリリング対策が施されたシリンダーは、差し込み口や内部に硬度の高い合金が採用されている場合が多く、外部からの物理的攻撃に対して高い耐性を発揮します。例えば、シリンダーの表面に超硬金属を入れて、ドリルが入るのを防止する製品が存在します。焼き入れ部品や、複数の超硬部品、ドリル対策用プレートを採用するなど、シリンダー内部を頑丈にした鍵もあります。錠ケースへのドリリング対策の例には、ケースに特殊な鋼により強度が増されたプロテクタープレートをつけた製品があげられます。シリンダーの内に硬度の高いボールや、殊焼入鋼でつくったピンを複数配置するなど、部品をプラスする方法もドリリング対策に効果的と言えます。近年は耐ドリリング性能の高い鍵が広く流通しており、外側の筒が破壊されても内側の筒を取り除けない仕様の製品も存在します。

そのほかドリリング対策として、鍵をワンドアツーロックにする方法も効果的です。メインの鍵とは別の外から見える補助錠の追加は、心理的に侵入を諦めさせる効果があり、ドリリングの被害防止につながります。補助錠を設置する場合、面付けタイプであれば強度は増しますが、穴開け作業が必要なため、専門業者に作業を依頼すると安心です。賃貸で補助錠を設置する際には、大家さんや管理会社に許可をもらうようにしてください。ドリリング対策には、シリンダーがない電子錠や電気錠の採用も選択肢のひとつです。電子錠は電池で動く鍵のため、設置が手軽で後付けできます。防犯カメラの設置など、いくつかの方法を組み合わせるのも、ドリリングへの抑止力として効果的です。