フロアヒンジ(ふろあひんじ)
フロアヒンジとは、扉の軸下の床に埋まっている、扉の開閉スピードを制御する機器です。勢いのついた扉の開閉により、指や足といった身体が扉に挟まれることを防ぐ役目があります。フロアヒンジと同様の性能を持つ器具に、扉の上部に設置するドアクローザーと呼ばれるものがあります。ドアクローザーと比較した際に、フロアヒンジは高価なため住宅での設置はほとんどありません。フロアヒンジは重量のある扉を支える際に高い安全性を発揮するため、マンションロビーの出入り口や事務所の扉等に設置されることが多いです。ほかにも、ガラス戸のように扉の構造上の理由でドアクローザーが取り付けられない場合には、フロアヒンジが採用されることがあります。フロアヒンジの設置は、扉の開閉時の摩擦低下につながり、扉や扉枠の劣化予防が見込めます。フロアヒンジには自動で閉まる機能が付いているのもあるため、空調が入った空間での扉の開放防止になり、節電効果も期待できます。フロアヒンジは扉の軸下の床に埋め込まれるため、見た目がスッキリするといった特徴があります。
フロアヒンジの仕組みは、開き戸の扉の軸がある床面に埋め込まれているフロアヒンジが扉の軸を支え、扉が開閉するときのスピードを油圧によって制御といったものです。フロアヒンジに内蔵されているバネが戻る力で扉を閉め、オイルダンパーでそのスピードを調整する仕組みとなっています。オイルダンパーは免震装置にも使われており、粘り気のあるオイルで衝撃を吸収します。フロアヒンジは、床下に埋まった「フロアヒンジ本体」と、扉下部に取り付けられる「アーム」扉上部に取り付けられる「トップピポット」の3つのユニットで構成されています。フロアヒンジ本体はセメントケースと呼ばれる箱のなかに設置され「小プレート」「大プレート」「フロアプレート」で蓋をされます。セメントケースはキャップで閉じられていますが、そのキャップ部分と扉下部にアームが取り付けられることで、扉の開閉スピードを制御する仕組みです。トップピポットは扉と天井の間に位置し、アームの動きに連動する仕組みとなっています。重量のある扉を支えるため、フロアヒンジは鉄骨に溶接したり、コンクリートで固めて簡単には動かないようにする必要があります。風が強い場所の扉に使われるケースでは、強度が1ランク上のフロアヒンジを使用したり「フランス落とし」のようにドアを下部で固定する錠を使用する場合は、仕組み上の問題からフロアヒンジと重ならないようにする必要があります。
フロアヒンジの種類は主に開閉様式と適用扉素材の2つの要素によって特定されます。開閉様式には「中心吊両側開」「中心吊一方開」「持出吊一方開」の3種類があり、扉に設置する仕組みに差異があります。適用扉素材には「スチール」「アルミ」「ステンレス」「木製」「強化ガラス」等があり、適用扉の重さによってフロアヒンジの規格が変わってきます。そのほかにも、フロアヒンジには扉の開く角度を調整できる機能が備わったフロアヒンジや、床が水没してもセメントケース内に浸水しない防水性能のある「防浸形フロアヒンジ」もあります。設置する床に合わせて「石張りフロアヒンジ」「絨毯張りフロアヒンジ」といった種類もあります。開閉の仕組みや設置方法・場所等に違いはありますが、どの種類のフロアヒンジでも、安全性を高める仕組みは同様となります。
フロアヒンジはその仕組み上の理由から、開閉時に摩耗がされるため、およそ5〜10年程度の寿命と言われています。扉の動きが鈍くなったり逆に速度が上がってしまうといった不具合が生じた時には、フロアヒンジの速度調整をする必要があります。フロアヒンジに「速度調整弁」という扉の開閉のスピードを調整できる部分があり、そのなかに位置するビスをマイナスドライバーで回すことで調整が可能です。ただしビスを回すのは30度程度に抑える必要があります。フロアヒンジの仕組み上、ビスを過度に回してしまうと油が漏れ、更なる故障につながる可能性があります。フロアヒンジの調整は、その仕組みを完全に理解した上で行わなければならないため、扉の専門業者に依頼するのが的確な判断と言えます。
調整では解決せず、部品の取り替えを行う必要な不具合もあります。扉の開閉するスピードが極端に速くなっている場合は、経年劣化などによりバネやオイルダンパーに不具合のある可能性があります。重量のある扉が高速で開閉すると利用する人が怪我をする危険が高まります。フロアヒンジの仕組み上、繰り返しの開閉で懸念されるのが、フロアヒンジに負荷がかかることによる耐用年数の減少です。扉が自閉しなくなったり、オイルダンパーからオイルが漏れているといった異変を見つけた場合は扉の専門業者による修理が必要です。突然の不具合を避けるために、ドアの開閉時に扉が横枠や上枠などの戸枠と干渉して開き難くないかなど定期的な点検が大切です。フロアヒンジの傾き調整により解消できる場合もありますが、多くのケースでフロアヒンジ本体やセメントケースが腐食して床部分が浮きあがっていることが考えられます。その場合は、部品、もしくはフロアヒンジ全体の取り替えが必要です。