マグネットタンブラー錠(まぐねっとたんぶらーじょう)
マグネットタンブラーシリンダーは、シリンダー錠の一種です。マグネットタンブラーシリンダーの鍵の見た目は四角い棒状で、表面にはディンプルキーと同じような丸いくぼみが見られるのが特徴です。名称にマグネットと付く通りマグネットタンブラーシリンダーは、磁石が持つS極とN極の性質を利用して解錠や施錠を行う構造になっています。シリンダーは「円筒」を意味し、実際にシリンダー錠の内部の構造は、外筒と内筒で成り立っています。シリンダー錠は内筒を回すことで解錠や施錠をしますが、鍵が挿さっていない状態のときには、いくつかのピン状や板状の障害物が外筒と内筒を貫通する構造になっているため、内筒は動かない仕組みです。この外筒と内筒を貫通する障害物のことをタンブラーと言います。
シリンダー錠を解錠または施錠するには、内筒を回すために、タンブラーを内筒から追い出さなくてはいけません。ディスクタンブラー錠やピンタンブラー錠の場合は、鍵を差し込むと、鍵の凹凸によってシリンダー内のタンブラーが押し上げられる構造になっています。この構造により、適合する鍵が差し込まれれば、すべてのタンブラーが内筒から追い出され、解錠または施錠ができるようになります。一方、マグネットタンブラーシリンダーは、鍵の凹凸を利用してタンブラーを動かすのではなく、磁力を利用する構造になっています。磁石にはS極とN極があり、異なる極どうしを近づければお互いが引き寄せ合い、逆に同じ極どうしを近づけると反発し合あう力が働きます。マグネットタンブラーシリンダーは、鍵とピン状のタンブラーの両方にマグネットが埋め込まれています。鍵を差し込むと、鍵とタンブラーの内部にあるマグネットが反発し合い、タンブラーについたバネが収縮するので、タンブラーは内筒から外筒へと追い出される構造になっています。鍵とタンブラーの内部にあるマグネットのすべてのS極とN曲の配列がそろい、すべてのタンブラーが外筒に収まったとき、内筒が回るという仕組みです。
マグネットタンブラーシリンダーを利用する1番のメリットは、ピッキングがほぼ不可能な点があげられます。例えば、古い鍵で代表的なディスクシリンダーをピッキングする場合は、特殊な工具や針金を使用してタンブラーを動かします。しかし、マグネットタンブラーシリンダー錠のタンブラーは物理的な接触ではなく、磁力によって動く構造になっています。工具や針金をマグネットタンブラーシリンダー錠に差し込んだとしても、金属にタンブラーの内部にあるマグネットが反応し、お互いが引き合うだけです。マグネットタンブラーシリンダー錠は、ピッキングによる空き巣の被害を防げるという点において、非常に優れた構造をした鍵だと言えます。
マグネットタンブラーシリンダーの合鍵が欲しい場合には、純正キーをメーカーに取り寄せるのが基本です。比較的短時間で合鍵が作成できるディスクシリンダーの鍵などと比べると、マグネットタンブラーシリンダーの合鍵を作る金額は高い傾向にあります。また、ディスクシリンダーのような凹凸のある鍵ならば、摩耗などによる劣化が目で見て判断できますが、マグネットタンブラーシリンダーの鍵は、見た目で劣化しているかどうかの判断が難しい傾向にあります。磁力が落ちているのに気が付かずにマグネットタンブラーシリンダーをずっと使用していたら、ある日突然鍵が開けられなくなった、ということも起こりかねません。マグネットタンブラーシリンダーを使用する場合は、定期的にメンテナンスする必要があります。
マグネットタンブラーシリンダーで、紛失と同様に気をつけなければいけないのが、鍵の管理方法です。特に、マグネットタンブラーシリンダーの鍵をカバンのなかに入れて持ち運ぶ際には、クレジットカードなどの磁気の影響を受けやすいものには近づけないように注意しなくてはいけません。例えば、クレジットカードには個人情報などのデータが入っている磁気ストライプやICチップがついていますが、この部分に磁力を発するものを近づけると、磁気不良を起こし、決済などの際の利用ができなくなることがあります。クレジットカードのほかに磁気の影響を受けやすいものには、通帳や定期券、腕時計などがあげられます。マグネットタンブラーシリンダーの鍵を持ち歩く際や保管する際には、これらに近づけないようにする工夫が必要です。
鍵が摩耗しないマグネットタンブラーシリンダーのメリットを活かして、不特定多数の人が利用するコインロッカーで使われています。また、マグネットタンブラーシリンダーはスーツケースやバイクのシャッターキーとして使用されることもあります。かつてマグネットタンブラーシリンダーは、ピッキングに強く防犯性が高い構造であるということから、昔の集合住宅やマンションでも多く使われていました。しかし、マグネットタンブラーシリンダーは、S極とN極のみでパターンのみなので、鍵違いの数に限りが出てしまいます。また、近年では空き巣などで住居に侵入するのに、鍵そのものを破壊したり、窓ガラスを破壊したりと、ピッキング以外の手口が多くなっています。これらの理由から、現在ではマグネットタンブラーシリンダーの取り扱いが減少傾向にあります。