マスターキー(ますたーきー)
「親鍵」とも呼ばれるマスターキーは、複数の扉を1本だけで施解錠できる鍵です。住宅では賃貸のアパートやマンションで採用されています。住宅以外にもホテルの客室や学校の教室、病院の診察室などで幅広く活用されています。マスターキーを持つのは、管理会社や賃貸のオーナーなどその施設の管理者です。仕組み上、悪用されると非常に危険なため、普段は目立たないところに収納されています。一般的な鍵の場合、建物は特定の1つの鍵にしか対応していないため、専用の鍵以外では施解錠ができません。しかし、複数の錠を施解錠できる仕組みであるマスターキーが手元にあれば、別々の扉の錠前が複数あっても手軽に操作できます。反対にマンションのように複数ある部屋の鍵のどれでもエントランスの自動ドアを開けられる鍵を「逆マスターキー」と呼びます。通常の鍵に比べてマスターキーに対応している錠前の内部構造は仕組みが複雑なのが特徴です。しかし見た目は通常の鍵と大差がないため一般の人が見分けるのは難しいとされています。
施解錠および管理できる扉の規模によって、マスターキーにはいくつかの種類に分かれます。まず対応する複数の扉を管理できるのが、標準的なマスターキーです。次に、そのマスターキーが管理する建物がいくつかあった際、該当するグループ内の全扉を施解錠できるのがグランドマスターキーです。例えば、階ごとにグランドマスターキーを1本準備しておくと、各階の部屋の管理がスムーズになるため、大きな施設にとっては便利な仕組みとなっています。さらにグランドマスターキーを束ねる鍵を、グレートグランドマスターキーと呼びます。グレートグランドマスターキーは、グランドマスターキーで管理しているすべての扉の施解錠ができます。たとえば複数の施設を持つ大規模なホテルグループなどが、グランドマスターキーで管理する地域ごとの物件を、すべて同じ鍵で対応できるようになります。
マスターキーはシリンダー錠の仕組みを採用している扉に使われ、錠内部の仕組みに工夫が施されています。ピンシリンダー錠は、不正な鍵をブロックするため内部に障害物となるピンを備えており、施錠状態では上ピンまたは下ピンがストッパーとなる仕組みです。上ピンと下ピンにはそれぞれ切れ込みが入っています。外筒と内筒の境界と切れ込みの高さがそろうと、内筒が回転し扉が開く仕組みです。通常切れ込みは各ピンに対し1箇所の仕組みですが、マスターキーは追加の切れ込みがあります。複数の切れ込みによって専用の鍵でなくても、マスターキー用の切れ込みがそろえば内筒が回転する仕組みです。通常のシリンダー錠の内部構造は、あえてすべてのピンの組み合わせに対応させないことで異なる鍵をブロックする仕組みです。一方、マスターキーの場合、設定したピンの組み合わせに変化をつけることで鍵自体の数を増やせます。
通常時はその部屋の扉だけしか開かない「子鍵」と呼ばれる鍵を使用します。ですが、マスターキーは1本でどの部屋でも開けられる仕組みなのでトラブルの発生時に迅速な対応が可能です。マスターキーのメリットとしては、事故や災害時における避難時間の短縮があげられます。ホテルで火災や地震が発生した際、何十部屋もあるホテルの扉を、対応する錠前を照らし合わせて解錠すると時間がかかります。またホテルでお客さんが鍵をなくしてしまったという際にも、すぐに部屋に戻れるため宿泊客の安心につながります。そのほか賃貸に住む1人暮らしの人と連絡が取れないなど、安否確認が必要な場面にも活躍します。通常、たとえ建物のオーナーや管理人であったとしても、正当な理由なく他人の居室に無断で入ると住居侵入罪にあたります。とはいえ合鍵を持っている家族や親族などと連絡がとれず、マスターキーもない場合は鍵屋さんを呼ぶ、窓ガラスを割るなどの手段を取らざるを得ません。しかし設備を壊すことに躊躇したり、業者の手配が遅くなったりするうちに手遅れになってしまうケースも存在します。
建物全体の防犯性に大きく関わる仕組みのため、マスターキーは建物所有者でない個人が作製するのは困難と言えます。建物の所有者であることを示す証明書や、身分証などの提示を求められる場合があります。建物所有者であってもマスターキーを複製する際は、作製時と同様に身分証明書の提示を求められる可能性があります。そのほか1本の鍵で複数の錠前を操作できる仕組みを持つために、管理には細心の注意が必要です。紛失してしまった場合、盗難や第三者への譲渡が発生すると、該当する建物全体が危険にさらされてしまいます。万が一紛失してしまった際は、警察への相談はもちろんのこと、対応する扉の鍵の全交換が推奨されます。賃貸物件の場合は大家さんや管理会社、会社では上司や専門の部署などマスターキーの管理者へすぐに連絡してください。マスターキーは便利な仕組みである反面、紛失時のリスクが高いため、むやみに持ちださず普段は金庫で管理するなどしておく必要があります。