声紋認証（せいもんにんしょう）

生体認証の1種で、声の特徴を用いた仕組みを声紋認証と呼びます。指にひとりひとり異なる指紋があるように、声にも個人で異なる特徴があります。声をデータ化した際に、模様のように浮かびあがる特徴を声紋と呼びます。声紋認証は個人で異なる声の周波数を分析し、データ化したものを使い認証する仕組みです。1962年に、声紋で話し手を認識できる可能性が発表されました。声紋認証の仕組みを使った声紋鑑定は犯罪捜査にも活用されており、1960年代から導入されています。近年は、本人確認業務が発生するコールセンターや金融機関などの現場で、声紋認証の仕組みが活用されています。

人が発する声は、さまざまな周波数の組み合わせから成り立ちます。個人で異なった響きに聞こえる仕組みは、声道の長さや太さ、口の形や鼻腔の違いによるものです。発音やアクセント、会話速度といった話し方にも個人差があります。声紋認証は、こうした個人が持つ声の特徴をデータ化して認証する仕組みです。指紋のように個々で異なる特徴がありますが、声は仕組み上、肉眼で違いを判別できません。そこで周波数を分析する専用装置に声をデータとして取り込み、時間と周波数の2つの軸で分析します。そうすることで音声が波のような形で表示される仕組みです。録音データから異なる特徴を抜き出し、個人ごとにパターン化します。音声信号の濃淡の位置や大きさは、人によって異なります。データ上の声紋と一致するかを認証のたびに判断し、一致すると認証される仕組みです。声紋認証の仕組みは、事前に設定されたフレーズで認証する「テキスト依存方式」と、会話形式で認証する「テキスト独立方式」の2種類に分けられます。テキスト依存方式は、鍵の代わりとなる決められたフレーズを数回声に出して登録する仕組みです。声紋認証に必要な登録は、短い時間で完了します。指定のフレーズを次回の声紋認証で唱えると、数秒で認証される仕組みです。テキスト依存方式の仕組みを用いた声紋認証の例として、スマートスピーカーがあげられます。一方、フリーワード方式とも呼ばれるテキスト独立方式は、会話のような長めのフレーズを利用して認証する仕組みです。テキスト依存方式の声紋認証とは異なり、内容に決まりのない比較的長い会話が鍵の代わりとなります。

扉の本人確認に声紋認証の仕組みを用いると、高度な防犯システムを構築できます。例えば、マンションのエントランスへの活用事例があります。複数の単語を登録しておける製品もあり、緊急用として設定した単語を発して読み取ると、警備会社に自動で連絡される機能を持つ声紋認証も存在します。身体の一部を読み取らなくてよい声紋認証は心理的負担が少ないと言えます。物に接触せずに認証できるため、両手がふさがった状態でも使えるため衛生的です。そのため、食品を扱う工事など特に衛生管理が必要とされる場所でも活用されています。導入時の負担の少なさや、遠隔地での認証の容易さも、声紋認証の特徴です。声紋認証システムは、対応するシステムやマイク以外に特別な機材を用いないため、導入ハードルが比較的低いと言えます。声紋認証は電話やビデオ越しなどの遠隔地でも、通話により本人確認が可能です。声が鍵の代わりになるため、声紋の照合により短時間で本人確認が完了します。

活用事例には、金融機関や保険会社などのコールセンターがあげられます。通常、電話での問い合わせの際、セキュリティを維持するため、氏名や生年月日など複数の質問がやりとりされます。しかし声紋認証を用いると特定のフレーズ、または会話によって本人確認が可能になります。本人確認に要していた時間を大幅に削減でき、業務効率が向上します。コールセンターで効果を発揮する声紋認証の機能には例えば、特定の人物を要注意人物としてピックアップする機能を持つ声紋認証があげられます。声紋認証で通話を監視し、過去の通話で本人へのなりすましを試みた通話を特定する仕組みです。オフィスなど多くの人が出入りする現場でも、声紋認証の仕組みは活用されています。声紋認証と勤怠管理システムを連動させると、社内の人員をスムーズに把握できるため、不正な出退勤を防止します。社内の人員を把握することは第三者の侵入や、地震や火災などの非常時にも役立ちます。そのほかスタッフの入退職に伴い、鍵やIDカードを渡す必要がなく、紛失時の対応が不要になります。社外から顧客を招き入れる際は、入館証を発行する必要がありますが、声紋認証であらかじめ顧客のデータを登録しておくと、入館証の回収の手間がなくなります。

手ぶらでの認証を可能にする利便性の高い声紋認証ですが、課題も存在します。例えば一卵性双生児など声の特徴が酷似している場合、認証を突破されてしまう可能性はゼロではありません。また声紋認証の精度は年々向上していますが、周囲の雑音の程度によっては正しく認証されない場合があります。