玄関ドアの錠前とシリンダーの仕組み
住宅の玄関ドアに取り付けられている錠前やシリンダーですが、具体的にはどのような仕組みになっているのでしょうか。この記事では錠前とシリンダーの仕組みや種類、鍵交換が必要になる事例などについて詳しくご紹介します。
◎錠前とシリンダーの違い
鍵のシリンダーとは、本体部分が円筒形になっている鍵穴のことを言います。元々英語で「cylinder(シリンダー)」は円柱や円筒という意味を表します。シリンダーと鍵が一致しなければ、鍵を挿しても回らず解錠や施錠を行うことはできない仕組みとなっています。一方錠前とは、ラッチやデッドボルトが収納されドアの内部に収められている錠ケースやサムターン、ドアノブやハンドルレバーを含めた鍵全体のことを指します。ひとことで錠前と言っても、さまざま種類があります。
◎錠前の仕組みと種類
錠前のひとつである箱錠で錠前の仕組みについて見ていくと、ドアは室外側と室内側両方にドアを開閉するためのドアノブやドアハンドルが付いています。また外側には鍵穴であるシリンダーが付いており、内側には回転式の金具であるサムターンがあります。鍵が施錠されているときはサムターンのつまみは地面と水平で横向きになっており、解錠されているときは縦向きになっています。錠ケースにはデッドボルトとラッチボルトが付属しており、ドアの内部に収納されています。デッドボルトとは鍵を閉める四角い金具で、ラッチボルトは三角形をしています。デッドボルトが鍵を完全に閉める役割を果たしているのに対して、ラッチボルトにはドアが風などで開かないように仮締めする役割があります。ドアハンドルを回しドアを開けると、バネの力により三角形の金具の先端がドア脇から出ている状態となり、ドアを閉めるとラッチボルトが枠側に当たり押し戻されます。錠前にはシリンダー箱錠、プッシュプル錠、シリンダー円筒錠、インテグラル錠、チューブラ錠、引き違い戸錠、サムラッチ錠など多くの種類があります。箱錠は、ドアの内部にデッドボルトやラッチボルトがある錠ケースが収められています。玄関ドアの外からは鍵を使い、内側からはサムターンを回転させ鍵の開け閉めを行います。集合住宅などに多く見られる面付箱錠とは、錠ケースをドアの内側ではなく外側に設置したもののことを言います。プッシュプル錠はドアに長いハンドルが付いており、室外側からハンドルを引く、また室内側から押す動作をすることで開閉できる錠前です。軽い力で開閉できるため力の弱いご高齢の方でも簡単に使用できます。ハンドルが縦長であるため、小さな子どもでも手が届きやすいのがプッシュプル錠の特徴です。ドアにシリンダーが2箇所に設置されていることが多く、防犯性に優れているため近年は新しい戸建住宅の玄関ドアなどに多く採用されています。インテグラル錠は、円筒状のドアノブのなかにシリンダーがある錠前で、古くからある住宅などの玄関や勝手口によく使われています。チューブラ錠は、ドアノブにラッチボルトを固定することによりドアを閉める仕組みとなっており、室内の間仕切りドアに適しています。シリンダー円筒錠は、握り玉と呼ばれているドアノブにシリンダーがある錠前でラッチボルトがあります。ドアの内側からはプッシュボタンかサムターンで施錠でき、トイレや浴室などの室内ドアに向いています。引き違い戸錠は、両開きタイプの引き戸の玄関などに使用される錠前です。2枚の扉が重なる中央部分に鍵があり、外側からは鍵を使い、内側からはつまみを上下させて施錠する仕組みとなっています。錠前に洋風の模様が施されているものが多いことから装飾錠とも呼ばれるサムラッチ錠は、ラッチというつまみを親指で下げて解錠します。英語でサム(thumb)つまり親指で動かすことからこの名がついたとされていますが、最近の玄関ドアの錠前としては使用されることは少なくなり廃盤となったタイプもあります。

◎シリンダーの仕組みと種類
シリンダーの円筒状の内部は、外筒と内筒の二重構造となっています。内部にはタンブラーと呼ばれる金属製の板やピンなどの障害物があり、鍵を回して板やピンを動かすことにより解錠します。シリンダーにはディスクシリンダー錠、ピンシリンダー錠、ディンプルシリンダー錠、ロータリーシリンダー錠、マグネットタンブラーシリンダー錠などの種類があります。ディスクシリンダー錠は、鍵の中心にくぼみがあり両側がギザギザになっている鍵を使用します。ディスクシリンダー錠の内筒には円盤状の薄い金具とスプリング、ピンが入っており鍵を挿して回すと金属製の金具が動き解錠します。不法侵入の手口のひとつで、シリンダーに特殊な器具を差し込んで不正解錠をするピッキングに弱いとされていることから古い住宅で目にすることはありますが、現在は製造が廃止されています。ピンシリンダー錠は、シリンダー内には複数のピンがあり、鍵を挿して回すことによりピンの高さが揃うことで解錠できる仕組みとなっています。ディンプルシリンダー錠は、鍵の表面に複数の丸いくぼみがあり、鍵先が丸くなっています。シリンダー内部のピンの本数が多く複雑な構造となっているため、ピッキングにも強く防犯性の高い鍵です。ロータリーディスクタンブラー錠は、シリンダーに鍵を挿して回すとタンブラーが回転して解錠します。合わない鍵を使ったり不正解錠しようと器具をシリンダー挿入した際には、ロッキングバーという機器によりタンブラーがロックされ開かなくなる仕組みなので、非常に防犯性に優れています。マグネットタンブラーシリンダー錠は、タンブラーに磁石が使われており鍵の側面には小さなマグネットがいくつか埋め込まれています。磁石にはS極とN極がありますが、同じ極同士は反発し違う極同士はS引き合う性質を活用しているのが特徴です。空き巣がピッキングしようとしてシリンダー内に器具を挿しこんでもタンブラーを操作することができないため、不正解錠に強い鍵とされています。錠前やシリンダーにはさまざま種類がありますが、何らかの原因によりシリンダーまたは錠前交換、もしくは両方の交換が必要になるケースがあります。
◎錠前やシリンダーの交換が必要なケース
住宅の玄関ドアは毎日何度も使用するため、長く使用していると錠前やシリンダーに不具合が生じることがあります。シリンダーに鍵がささらない、抜けにくい、回らないなどの症状がある場合は、シリンダー内に何らかのトラブルが起こっている可能性が高いと考えられます。このような場合は、シリンダー交換のみで錠前交換までは必要ないケースが多く見られます。シリンダー内にホコリや砂、ゴミなどが溜まっている場合は掃除機で吸い取るなどして取り除くと不具合が改善することもあります。ただしシリンダー内で鍵が折れた場合には、自分で無理に取り出そうとすると鍵穴を壊すなどかえって状態を悪化させてしまうため、鍵の専門業者に依頼をして取り除いてもらいましょう。外出時に鍵を紛失した場合には、スペアキーを持っていれば解錠できますが、失くした鍵を第三者によって悪用され不法侵入される可能性はゼロではないため、シリンダーごと交換した方が良いでしょう。シリンダーに鍵を挿すと問題なく回るのにも関わらず、ラッチボルトやデッドボルトが引っ込まずドアが開かない場合には、錠前に不具合が起こっている可能性があるため、錠前の交換が必要になるケースがあります。特に玄関ドアのデッドボルトは、雨による湿気などの影響により腐食していき、さらに何度も玄関ドアの開閉を繰り返すことで磨耗していきます。ドアノブを交換する場合にも、錠前そのものの交換が必要となる場合があります。錠前を製造しているメーカーで組織した団体であるJMLA、日本ロック工業会では一般的な鍵の耐用年数は約10年と定められています。耐用年数を過ぎてシリンダー内が錆び付いているなど経年劣化が見られる場合には、錠ケースも劣化していると考え両方交換した方が良いでしょう。使用している錠前の種類によっては、構造上シリンダーのみの交換ができず錠前交換も合わせて必要な場合があります。錠ケースがドアに収まっている箱錠やドア面に付いている面付き箱錠、ドアハンドルを押したり引いたりして開けるプッシュプル錠はシリンダーのみの交換が可能です。親指でレバーを操作し解錠するサムラッチ錠は、種類によってシリンダー交換のみの交換が可能なものと、錠前ごと交換しなければならないものがあります。デッドボルトとラッチボルトが付いているインテグラル錠、ラッチボルトのみのシリンダー円筒錠やチューブラ錠、引き違い戸錠はシリンダーが錠ケースと一体化しているため、シリンダーのみの交換ができず錠前ごと交換する必要があります。シリンダーのみ交換した場合と錠前ごと交換した場合では業者に交換を依頼した際にかかる費用が異なるため、鍵の不具合により交換を依頼する際には、玄関ドアの錠前がどれに当てはまるのかあらかじめ確認しておくと、おおよその費用を把握できます。

◎錠前とシリンダーの鍵交換事例
錠前やシリンダーは、玄関ドアに付いているシリンダーや錠前の状態によって交換する箇所が変わります。鍵の不具合は自己判断せず、鍵の専門業者に相談することが大切です。
○住宅のシリンダーのみを交換した事例
自宅の玄関ドアに箱錠タイプの錠前を使用していましたが、鍵を掛けようとすると引っかかりを感じることが多くなってきたため、シリンダーを修理することにしました。自宅に高齢の両親と小さな子どもが住んでいますが、共働きで留守にすることが多いため、急に鍵がかからなくなると夜間だけではなく日中においても防犯面で心配がありました。築年数が経っている住宅で鍵自体も錆びついていたため、鍵修理ではなく新しいシリンダーに交換したところ、スムーズに鍵の解錠ができるようになり防犯面も強化できました。
○シリンダー内で鍵が折れてしまった事例
自宅の玄関ドアのシリンダーに鍵を挿して回したところ折れてしまったため鍵の業者に連絡しました。以前から鍵を回すときに、固くてなかなかスムーズに回りませんでした。折れた鍵の断面が見えている状態だったので鍵を取り出すこともできましたが、シリンダー設置から15年近く経過していて劣化が見られるためシリンダーごと交換をしました。
○鍵を紛失してシリンダー交換した事例
外出先から帰宅して玄関ドアの鍵を開けようとした際に鍵が見当たらないことに気付き鍵の業者に相談をしました。鍵を落とした場合、万が一失くした鍵を悪意のある第三者に使われて空き巣に入られるリスクがあると考え、依頼主からの要望でドアのシリンダーを外し新たなシリンダーに交換しました。
○経年劣化のため錠前ごと交換した事例
玄関ドアのインテグラル錠のデッドボルトが戻らなくなったため、鍵の修理が必要になりました。交換前の錠前は住宅を購入した際に付いていたものを使用していたため、設置から10年以上経過しており、鍵の耐用年数を越えていました。鍵交換にかかる費用を抑えるためにシリンダーのみの交換も検討しましたが、ドアノブなどにも劣化が見られたため錠前すべてを交換しました。
○デッドボルトが動かなくなったため錠前交換した事例
玄関ドアの鍵がかけられなくなり、実際に業者が住宅で確認してみたところ、シリンダーには問題はなく何らかの原因で錠ケースに不具合が起こっていました。デッドボルトが動かなくなっていることがわかり修理しようと試みましたが、デッドボルトは出すことも引っ込めることもできず、まったく動きませんでした。無理に動かそうとすると玄関ドアを破壊してしまう可能性があるため、錠前の交換を行いました。玄関に使用していたのはインテグラル錠でシリンダーと錠前が一緒になっているタイプだったため、シリンダーと錠ケースを交換しました。

◎まとめ
鍵穴であるシリンダーや錠ケースを含めた錠前には多くの種類がありますが、なかにはシリンダーのみの交換ができず錠前ごと交換しなければないものもあるため注意が必要です。鍵の専門業者であるカギ舎では、シリンダーや錠前の交換のほかにも鍵に関するあらゆる相談や依頼に応じています。シリンダーや錠前に不具合が起こってしまったり経年劣化により鍵交換を行う際は、年中無休24時間で交換や修理に対応しているカギ舎へお気軽にご相談ください。