介護施設における鍵の役割と安全対策
介護施設は身体機能や認知機能が低下し、介護を必要とする方が集団で生活を送る場所です。介護施設ではその人らしく充実した生活を送ることが目標となりますが、それと同時に安全に暮らせる環境を提供することが大切です。介護施設では安全に過ごせるようにさまざまな対策を行う義務がありますが、その対策のひとつに鍵の活用があげられます。鍵は、不審者の侵入を拒むだけでなく、介護施設の利用者の安全を守る大切な道具となるのです。この記事では、介護施設で発生しやすいトラブルとそれに対する鍵の活用方法についてご紹介します。
◎介護施設における鍵の役割
介護施設で鍵が使用されている場所はエントランスだけではありません。職員出入口や更衣室などの職員のみが使用する場所、利用者が侵入してしまうと危険が多い場所、フロア出入り口やエレベーターや階段室、窓、通用口など非常に多くの場所に鍵が取り付けられています。介護施設や利用者によりますが、利用者の居室を施錠できるように利用者に鍵を渡している施設もあります。介護施設における鍵の第1目的は不法侵入者を防ぐことです。介護施設は利用者やスタッフだけでなく、訪問客や業者など不特定多数の出入りがあります。介護施設のエントランスの鍵は、訪問客や業者に紛れて不法侵入者が入らないよう、また利用者が誤って外に出てしまわないように常時施錠しているところが多いです。オートロック機能を活用すると確実に施錠することができるので、エントランスには電気錠が適しています。また電気錠を使用することによって、インターホンで訪問者を確認してから、遠隔で解錠操作することができるのも便利です。エントランスの鍵は不審者の侵入防止の観点だけでなく、利用者の所在確認や無断で外出してしまうことを防ぐ意味でも重要です。エントランスの解錠操作をスタッフが行うような仕組みにすると、ごく自然な形で利用者の外出を確実に把握することができます。比較的規模の小さい介護施設や住宅型の介護施設に入居する認知機能の保たれた利用者に対しては、電気錠と入退室管理システムを活用するのも良いでしょう。介護施設で集団生活を送る利用者にとっての鍵は、プライバシーの確保や私物の管理という側面においても重要な役割を果たします。とくにプライバシーの観点からみると、鍵の管理が可能な利用者には利用者自身に居室の鍵を渡して施解錠を任せると良いでしょう。多くの人が共同で暮らす介護施設では、居室の鍵が利用者の安心と落ち着く空間づくりに役立ちます。さらに介護施設特有の鍵の意義として、利用者のケガや事故防止の側面があります。介護施設には原則として、身体機能や認知機能が低下した介護を必要とする方が多く利用しています。そのような方々は生活のなかでケガや事故のリスクが高くなってしまいます。介護施設の鍵は使用方法を工夫することで、ケガや事故を防ぐことに多いに役立てることができるのです。
◎介護施設で発生しうるトラブルとその対策
ケガや事故の発生リスクの高い利用者が多い介護施設では、安全に配慮した環境整備が求められます。介護施設内で発生するトラブルはさまざまですが、たとえば転倒や転落、利用者間のトラブル、介護施設から無断で外出してしまう離設などがあります。介護施設ではあらゆるトラブルを想定し、環境を整備しなければなりません。たとえば、転倒の危険性に対し、周囲に危険因子となるものを配置しないことは、最も基本的な安全対策のひとつです。しかし多くの利用者が生活する介護施設では、危険なものを全て排除することは現実的に不可能でしょう。そこで危険因子から利用者を守る手段として、鍵が役立ちます。最も簡単な対策としては、危険因子のある部屋自体に鍵をかけることです。食堂や浴室、階段室など安全が保ちづらい場所はあらかじめ施錠しておくと安心です。鍵をかけることによって危険な場所に利用者がひとりで入り込んでしまうのを防ぐことができるので、転倒や転落事故などの危険から利用者を守ることができます。危険を避けることができれば利用者の行動範囲を制限したり、移動に付き添うことが不要になったりするかもしれません。利用者の自由な行動を尊重することができるので、利用者の介護施設生活の質の向上にもつながるでしょう。このように利用者のみの立ち入りを禁止するような鍵の使い方をする場所には、電気錠を使用するとよいでしょう。電気錠にすると解錠操作が簡便なだけでなく、鍵の管理の手間を省くことができるメリットもあるので、介護施設スタッフの仕事効率の向上にもつながります。

◎介護施設の最大の事故となり得る離設とその原因
介護施設内で発生する事故の中で最も重大な事故のひとつといえるのが、施設から無断で外出してしまうこと、いわゆる離設です。介護施設における離設は、認知機能が低下しているかつ移動が自立している方に大きなリスクがあります。認知症を患う方が介護施設から離設してしまう原因には、帰宅願望や外出願望、ルールを守った行動ができないこと、認知症の周辺症状のひとつである徘徊などが考えられます。認知症を発症すると記憶力や注意力、判断力、思考力などの能力が低下したり、日時や場所の認識が難しくなります。現在置かれている環境やご自身の身体機能、認知機能を理解し適応することが難しくなったり、決まり事を守ることが難しくなったりすることも認知機能低下による症状のひとつです。その結果、介護施設のルールを逸脱して、介護施設外に抜け出そうとしてしまうことにつながってしまうのです。もうひとつ考えなければならない重要な問題は徘徊です。徘徊は重度の認知症特有の症状のひとつで、当てもなくひたすらに歩き続けてしまう行動を指します。実際には「仕事に行く」「家に帰る」「子どもを迎えに行く」などと何か目的をもって行動していることも多いですが、仕事をしていないのに仕事に行こうとする、以前住んでいた場所にいると誤認している、年齢設定が現実と異なっているなど現状にそぐわない状況であることが多いです。なかには昼夜リズムも崩れ、早朝や深夜に徘徊してしまうことも少なくありません。徘徊していても目的を達成することができないので、ひたすらに歩き続けてしまいます。しまいに当初の目的を忘れてしまったり、迷子になってしまったりすることもあります。警視庁のデータによると、令和2年の徘徊による行方不明者は全国で1万8千人にも及んだとされています。徘徊は徘徊している本人にやめるように説得しても納得させることが非常に困難です。むしろそれに反抗して暴力的になり、さらに行動が加速してしまうこともあるので対応には注意が必要です。それが屋外になるとなおさら収集がつけられなくなってしまいます。介護施設としては危険の多い屋外にひとりで出向くことのないような環境整備が求められます。徘徊を無理に止めるのではなく、介護施設内の安全な場所で歩くことのできる環境を整えられると良いでしょう。
◎介護施設からの離設事故の事例
介護施設からの離設は、命に係わる重大な事故に発展する危険性があります。徘徊をするレベルの重度の認知症を患っている方は、記憶力や注意力、判断力、思考力などが著しく低下している状態です。介護施設に入居している事実を理解できておらず、ご自身の名前も分からない、答えられないという場合もあるかもしれません。1度外に出てしまうと、自力で介護施設に戻ることは極めて難しいでしょう。外で徘徊して長時間が経過してしまうと、行方不明になる可能性が高くなります。認知機能の低下は時に疲労を自覚しにくくしてしまうため、何時間も歩き続けてかなり遠くまで移動してしまうことがあります。また注意力の低下や交通ルールに沿った行動をすることも難しいため、交通事故に遭遇する可能性が高くなります。実際に介護施設から離設して、死亡事故に発展してしまった事例も多く報告されています。死亡事故事例としては、介護施設から離設して畑や山の中に迷い込んでしまった、窓からの脱出を試みて高所から地面に落下してしまったケースなどが報告されています。離設による事故は、裁判に発展する可能性もあります。裁判では離設が予見できたかどうか、安全対策が十分に施されていたかどうかが焦点となります。認知症を患う方の行動はときに予想を上回るものとなることもありますが、介護施設では徘徊に対してあらゆる行動の可能性を検討し、対策を講じる必要があるのです。

◎徘徊に対する介護施設の鍵による安全対策
徘徊は屋外だけでなく、介護施設内でも起こり得ます。介護施設内における徘徊対策としては、施設内での迷子や立ち入り禁止区間への侵入を防ぐことが重要です。またほかの利用者の居室に侵入し、利用者間でのトラブルに発展する可能性についても考えなくてはいけません。介護施設の居室は病院のように個室または大部屋が廊下に面している従来型といくつかの居室が共有スペースに面していて、ほかの利用者とコミュニケーションを取りながら生活できるユニット型があります。いずれにしても共有スペースや廊下から、簡単にほかの利用者の居室に入ることができる構造になっている場合がほとんどです。このような環境で利用者のプライバシーと安全を守るためには、居室に鍵をかけることが望まれます。ただし介護施設には医療ケアや介護が必要な利用者も多く生活しているため、すべての居室に鍵をかけることは難しいかもしれません。鍵の管理ができる利用者の居室には、利用者自身で施解錠できるような金属錠を使用するのがおすすめです。利用者が自宅生活と近い自然な生活を送るという側面でみても、プライベート空間の鍵を自分で管理することのメリットがあるでしょう。また、介護施設スタッフのスタッフルームや危険な機器が置いてある部屋などの立ち入り禁止区域も制限する必要があります。出入りの権限をスタッフのみに与える場合には、電気錠を使用するのが良いでしょう。電気錠があればオートロック機能によって簡単かつ確実に鍵を施錠することができます。また解錠操作を暗証番号やカードキー、生体認証などから選択することができるのも便利です。このように電気錠は、介護施設スタッフの仕事効率を向上させることにもつながります。居室のある階から出さない工夫としては、エレベーターや階段室などに鍵を設置することが有効です。この場合も電気錠を用いることで、利用者の行動を管理しやすくなります。介護施設外に徘徊させない対策としては、屋外への出入り口に確実に鍵をかけることが基本です。屋外への出入り口はエントランスだけでなく、窓や通用口にも注意しなくてはなりません。介護施設のエントランスは電気錠を使用すると、オートロック機能によって常に確実に施錠することができます。電気錠を使用すれば内鍵が不要になることも大きなメリットです。内鍵がなければ利用者自身が解錠を操作することができなくなるので、最も効果的な離設防止策であるといえるでしょう。住宅型の比較的小さな介護施設など電気錠を使用しない場合には、玄関ドアや通用口の鍵をセキュリティ機能の高い鍵に変更することができます。たとえば、設定によって内鍵を回しても施錠できない仕様にできるセーフティーサムターンやサムターン着脱式の補助錠などがあります。窓からの脱走を防止するための対策としては、第一に窓の開口範囲を狭めることが有効です。そのほか、窓につけられているクレセント錠に鍵をつけたり、補助錠を追加したりする方法などがあります。これらは比較的簡単に導入することができるので、介護施設の安全対策として取り入れるべきでしょう。

◎まとめ
介護施設において、鍵は利用者が安全に暮らせる環境づくりに欠かすことのできない重要な道具のひとつです。とくに認知症を患う利用者が多い介護施設では、しばしば徘徊などによる離設事故が発生しています。利用者の症状や特性に合わせて、定期的に安全対策を見直す必要があるでしょう。当社では、これまでに介護施設の鍵の施工を複数手掛けてきました。さまざまな介護施設のお悩みに合わせて鍵をご提案することが可能です。介護施設の安全対策としての鍵の活用についてご検討の方は、ぜひカギ舎までお気軽にご相談ください。