徘徊を防止するには
ここでは自宅からの徘徊防止についてお伝えしていきたいと思います。
みなさんの家族の中にも、認知症を患っている方がおられる事だと思います。いまやわが国では65歳以上の7人に1人は認知症であるといわれていますから、認知症であること自体はそれほど珍しいことではないのです。
また認知症を患っている人が、家族の見ていない間に外出されてしまい、そのまま行方不明となってしまう例も、毎年1万人以上もおられる状況なのです。
不幸にも事故にあってしまうことも少なくありません。
ここでは、認知症の方が外出してトラブルにあわないように、快適な暮らしのお手伝いをしていきたいと思います。
目次
○徘徊対策で最初に考えることは鍵ではない?!
○徘徊は「さまよっている」のではない~自分の居場所を求め続けている
○認知症の方の行動パターンを観察する
○その行動の意味するものは何か
○行動パターンに合わせた対策を行う
○日中に徘徊が多い場合の対策
○家族が対応できない場合や夜間に徘徊が多い場合の対策~鍵の交換を考えてみる
○まとめ
○徘徊対策で最初に考えることは鍵ではない?!
私どもカギ舎セキュスターズにおいても、認知症による徘徊対策についてご相談を受けるのですが、
「とりあえず内側からカギが開かないようにしてほしい」
という依頼が多くあります。
鍵を専門に取り扱っていますから、内側から鍵が開かないようにすることはそれほど難しいことではありません。むしろそのような鍵に交換するだけですから、簡単な作業なのです。
しかし、知っておいてほしいことは、無理に鍵を開かないようにしてしまうことで、認知症の方の精神状態が不安定になってしまうということです。
認知症であるとしても、ご本人は何かしらの想いで外出したいわけですから、今まで開いていた鍵が開かなくなったことで、頭の中が混乱してしまうことになります。
混乱が強ければ強いほど、認知症がさらに悪化してしまう可能性があります。悪化して混乱が強くなれば、ご家族の対応もさらに必要になりますし、介護サービスを受ける頻度も多くなり、自宅での介護がたいへんになってしまうかもしれません。
認知症の方に対する介護は、無理強いは禁物です。
まずは、ご本人様が安心して、自宅で過ごせるようにすることが大事であると考えておきましょう。
○徘徊は「さまよっている」のではない~自分の居場所を求め続けている
冒頭にも申しましたが、認知症の方は理由があって、その行動を行います。
徘徊というと、意味もなくさまよっているというイメージがありますが、そんなことはありません。
例えば、働いていた時代の自分を思い出して、
「会社にいかなきゃ」
と出かけられてしまうのです。
このような行動は、周りにいる家族からしたら、
「もう仕事はしていないでしょ!」
と思うのかもしれませんが、本人はバリバリ働いていたサラリーマン時代に戻っているのです。
しかし本人が外出してみると、会社を見つけることはできずに探し続けてしまうことになります。この探し求めている姿を、私たちが「徘徊」と呼んでいるものなのです。
○認知症の方の行動パターンを観察する
認知症の方の徘徊対策を考える前に、まず行ってほしいことは、認知症の方の行動パターンを観察するということです。
私たちは、おおむねパターン化された毎日の中で行動していることが多いと思います。認知症の方においても観察してみると、パターンの中で行動されていることが多いことが分かります。
朝起きるのは何時なのか、朝ごはんは何を食べるのか、午前中は何をしているのか、昼寝はされるか、行動的になられるのは何時くらいか・・・行動をタイムテーブルにしてしまって記録を取り続けていると、おおむねこのような行動パターンが見えてきます。
先ほど会社に行かれるという例を出しましたが、これが必ずしも朝というわけではありません。
認知症の人には「見当識障害」という症状があって、時間、場所、人などが分からなくなってしまいます。そのため真夜中においても、「朝になったから会社にいかないといけない」と思ってしまうことがあるのです。
むしろ昼間に寝て、夜中に行動するという昼夜逆転現象の方が多いですから、このような行動もうなずけると思います。
○その行動の意味するものは何か
先ほどは会社に行くという話を例に出しましたが、行動の理由というものは人それぞれだと思います。
買い物に行くということかもしれませんし、人に会いに行くのかもしれません。銀行にいきたいのかもしれませんし、喉が渇いたのかもしれません。
この行動の意味するものが分かれば、徘徊の対策はとても行いやすくなると思います。
私が知っている認知症の方でこんな方がおられました。
その方は、毎晩、遅い時間に着替えて、外出しようとされます。家族は本人が着替えを始められたらいつも、「遅い時間だから出かけてはいけない」と、本人に強く言っていました。
しかしその本人は納得がいきません。着替えをしたい、出かけたいと1点張りです。
そこで家族は少し視点を変えて、本人に声をかけてみました。
「着替えてどこにいくの?」
「どこに行きたいの?」
その方は、長い間、子供の通学時間に交通整理をされていました。横断歩道に立って、子供たちが横断歩道を渡る時に、黄色い旗を持って、安全に渡れるように交通整理をしていたのです。
どうやら話を聞くと、黄色い旗を探しに行きたい想いがあったり、交通整理に出かけないといけないと思ったりされていることが分かりました。
家族はまず交通整理の旗を、本人の部屋に用意しました。本人はそれを見て、安心される様子もありましたが、今度は交通整理に行こうとされます。
今度は家族が本人に見えるところに、「今日は小学校は休みです」と張り紙をされました。するとその貼り紙を見たその本人が、交通整理に行こうとするとその貼り紙をみて、「今日は休みか」と外出されないようになったということです。
○行動パターンに合わせた対策を行う
そのほかにも、このようなことがありました。
認知症の人が住む自宅のリフォームをされました。
リフォーム前の自宅は、段差が多く、お年寄りが住むには少々勝手が悪かったのです。
段差をなくす工事とともに、和式のトイレを様式のトイレに変更もされました。扉も開けやすいように、開き戸から引き戸に変えられたのです。
使い勝手がよくなったはずなのですが、こんな困ったことが起きました。
トイレの扉を変更してしまったことで、トイレの場所が分からなくなってしまったのです。
最初は自宅内をうろうろして、その間に、失禁されてしまうこともありました。
そのようなことが続いてしまう中で、外に飛び出してしまうようになってしまったのです。
いわゆる徘徊の始まりです。
家族は本人の行動パターンを観察するようにしました。
すると、どうも排せつのときに合わせて、徘徊することが分かったのです。
最初は無理にオムツを着用するよう勧められたのですが、本人はどうしてもオムツは嫌だと履かれることはありませんでした。無理に履かせようとすると、ものすごく抵抗されることもありました。
認知症の人に無理強いをすることはいけません。
そんなときに、介護サービスの職員からひとつ提案がありました。
トイレの扉に「トイレのマーク」を貼っておくことです。
すると、これだけでトイレを見つけることができるようになり、外に出てしまうことがなくなったのです。
このように行動パターンに合わせた対策を行うという姿勢は、とても大事であることが分かるでしょう。
では、行動パターンに応じて、どのような対策を行うことができるのか考えていきましょう。
○日中に徘徊が多い場合の対策
ご本人の行動パターンを確認することができたら、できる限りご本人にも、また家族にも負担がないように対策を講じることがいいでしょう。
もしも主に行動されるのが日中であるならば、それで何が問題になっているか確認しましょう。
もしも家族がおられる状況で、ふとした隙に外出されてしまうということであれば、家族が外出に気付けるような工夫が必要になるかと思います。
例えば、ご本人のお部屋から出られたり、ベッドから離れられることで反応するセンサーがあります。
ご家族が日中に対応できるということであれば、このようなセンサーを用いることもひとつの手段であると考えられます。
ただし、活動量がとても多く、センサーが頻繁に反応するような場合においては、センサーを設置する場所も工夫してみましょう。家族にとって負担のかからない対応ができるようにしておかないと、いずれ疲れてしまうことになります。
○家族が対応できない場合や夜間に徘徊が多い場合の対策~鍵の交換を考えてみる
日中においても同居していないとか、仕事をしているという理由によって、ご家族が対応できないということもあるでしょう。
また、夜間に行動量が多いということであれば、家族の対応も限界があると思います。
基本的には、家族の負担をふやさないようにしつつ、対策を講じることがいいでしょう。
日中の対策であれば、基本的にはディサービスなど介護サービスを利用することが一番効果的で、日中に行動して疲れれば、夜間よく眠ることができます。
どうしても介護サービスに頼ることができなかったり、夜間、対応が難しいような場合では、鍵の交換を考えればいいでしょう。
内側からロックするためのサムターンを外すことができる鍵があります。この鍵に交換すれば、基本的に内側から鍵を開けることができなくなりますので、どうしても対応が難しい場合には効果的だと思います。
また電気錠に交換すれば、内側から鍵が開かないように設定することが可能です。
とても簡単に設定することができますし、本人が鍵を失くしてしまうリスクもなくなりますから、とてもおススメです。
これらの鍵は、比較的お安く交換できるものも多くありますし、またどんなに古い扉であったとしても、基本的には後付けすることができますので、ぜひご相談頂きたいと思います。
○まとめ
徘徊防止については、多くの相談を受けるようになりました。
冒頭にもお伝えしましたが、鍵を内側から開かないようにするということは、私どもからすればとても簡単な依頼です。
内側から開かない鍵に変えてしまうだけですから。
でも認知症のことを多く学んでいくと、それだけではダメなことも分かりました。
家族だけではなく、認知症の人にとっても安心して自宅で過ごすことができるように、これからもいい商品を提案していければと思います。